キメラ 被虐の獄
事件報告書の作成で、帰りはすっかり遅くなってしまった。
”部長の奴、細かいことをくどくどと”
しつこく報告書の書き直しを命じてきた部長に悪態をつきながら車から降りた。
キメラ・スレイグ巡査部長。この街の女刑事だ。
すばらしい美貌とグラマラスな肉体。
男なら誰でも振り向くだろう。
何人のも男たちが彼女をモノにしようと迫ってきたものだ。
しかし、彼女には、彼女を優秀な警官たらしめている鍛え上げた格闘術と、鮮やかな
拳銃捌きという刺があった。
女と思ってなめてもらっては困る!
強烈な自信と意地。
邪な考えで彼女に迫ってきたちんぴらどもも数多いが、皆、きついしっぺ返しを食ら
ったものだ。
「はん!あんたそれでも男なの」
そんなとき決まってキメラが放つ台詞だ。
そんな彼女に近付く男も最近はめったになく、現在、彼女にはステディはいない。
”あいつ、いやらしい目で見てくれてぇ”
部長のねっとりした目を思い出すと、ますます気分が悪くなってきた。
バタン!
大きな音をたてて車のドアを閉めた。
アパートの部屋の鍵を開けようとしたとき、
”!?”
何かの気配を感じてキメラは振り向いた。
男が一人、キメラと目が合うと、さっと走り出した。
「何なのよ?」
一瞬、追いかけようとした彼女の背後でドアが開き、中からのびてきた腕がキメラを
部屋の中へ引きずり込んだ。
「!」
すごい力でソファの上に放り投げられたキメラは、しかし素早く体勢を立て直した。
真っ暗な部屋の中に、”一人、二人、三人?”気配を読みとるキメラ。
『ハアッハァ!!』奇声をあげて一人が飛びかかってきた。
「せいっ!」
男の顎に肘打ちを見舞うキメラ。男は声も立てずに倒れた。
『フゥ!』間髪入れずにもう一人が襲いかかる。
タックルをかける男を組み止め、男の顔面に膝蹴りを食らわせる。
『グワッ!!』たまらず倒れ込む男の鳩尾に踵を落とし、振り向きざまに残りの一人
に向けて愛用の拳銃を向けた。
「それまでっ!動かないで・・・」
男がいない。
「えっ?」
一瞬、動きを止めたキメラ。
と、手刀がキメラの手首に食い込み、キメラは拳銃を取り落とした。
そのまま羽交い締めにされるキメラ。
「くっ!」
プシュッ
首筋に当てられた無針注射器が、キメラの意識を遠のかせた。
”一体、何、者・・・・”
「さあ、起きろお前ら。いつまでもころがってんじゃねえ。」
ぐったりしたキメラを肩に抱えているのは、レスラーのような体格をした男だ。
『畜生!このアマァ』
『八つ裂きにしてやるぜ』
口々に呪いの言葉をつぶやきながら、2人の男はよろよろと立ち上がった。
「あせるなよ。さあ、ボスの所に土産を持って行くぞ。」
麻袋の中にキメラを入れて3人はキメラのアパートをでた。
外には、先刻のもう一人の男が、黒塗りの車のエンジンをかけていた。
どれくらい気を失っていたのか。
気が付くとキメラはコンクリートの部屋に転がされてた。
”何が、あったんだっけ?・・・・・!!”
キメラはすばやく自身をチェックした。
怪我はない。少々頭はふらつくけれど。
記憶は・・・、覚えている。がっちりした体格の男。
羽交い締めにされた。首筋に・・・無針注射器?
拳銃は・・・、ない。
周りを見渡すと、鉄製のドアが1カ所、天井の4隅に監視カメラが見える。
と、鉄製のドアが開いて、数人の男たちが入ってきた。
「お目覚めかい?スレイグ刑事さん」一人の男が声をかけてきた。
「誰なの?」低い声で聞き返すキメラ。
頭の中で声をかけてきた男についての記憶を探った。
”似ている。ピーター・ハリスン?”
一人の男の名前が浮かんだ。
「覚えているかいスレイグ刑事さん。
半年前にあんたに捕まったピーター・ハリスンを」
”やはり・・・。兄弟?”
「さあ、どなただったかしら?悪い奴は沢山いるから。」
しらっとかわしたキメラだったが、忘れるはずがなかった。
半年前、ピーター・ハリスンは、強盗に入った家で幼い子供を人質に立てこもった。
キメラは子供の代わりに人質として家に入った。
ところがこの男は子供を解放しなかった。そしてキメラをなぶった。
”あの卑劣な男!!”
今でも夢に見る。あの屈辱。
キメラの豊満な乳房をいたぶり、秘所までもなぶったあの男。
絶体絶命だったが、一瞬の油断をキメラは見逃さなかった。
キメラは、この男の急所を、潰した。
ピーター・ハリスンの泣き叫ぶ声。
『畜生、畜生、畜生、やってくれたな、この糞アマァ!!!畜生−!!!!
覚えていやがれ、絶対に、絶対に許さねぇぞ!!畜生−−!!!』
「俺ぁマイク・ハリスン。ピーターの奴ぁ俺の弟なんだ。バカな奴だが、年が離れて
いたせいか、
これがかわいくてなぁ。」一歩キメラに近付く男。
「それがあんたに玉ぁ潰されて・・・。」また一歩。
男の後ろにはあの、レスラーのような体つきの男が従っている。
「不憫でなぁ。」歩みを止める男。
「どうしたら弟が喜ぶかと考えてみた。」
キメラを見つめる男の目が光る。
「スレイグ刑事さん。あんたには2度と娑婆の空気は吸わせねぇよ。」
背後の男に合図するハリスン兄。
キメラはとっさに横っ飛びをかけた。正面からあの男に向き合っては不利だ。
一気にあの扉まで走る!
しかし男は素早かった。
キメラは行く手を阻まれた。
男と見合うキメラ。
他の男たちが両者を取り囲むように輪をつくった。
輪の真ん中でキメラは男と対峙した。
アパートでの戦いは不意打ちだった。今なら負けない。
自分に言い聞かせるキメラ。
「まずはあんたをぼろぼろに打ちのめしてやるぜスレイグ刑事さん。」
ハリスン兄の言葉を合図に男はキメラに飛びかかってきた。
間一髪でかわしたキメラ。再び対峙した両者に、輪を作っている男たちからの声が飛
んだ。
『リックさーん。やっちゃって下さい!!』
”しゃれになんないわ”
この男(リック)の体捌きはただ者のそれではない。
キメラの同僚でもこれだけの動きができる者がどれだけいるか・・・。
「でもっ!」
やるしかない。そう覚悟を決めたキメラの動きもまた、速かった。
低い姿勢からリックの懐に潜り込む。
”うまい!”
顎をかちあげる掌底打ちを放つ。”手応え、あり!”
もんどりうって倒れるリック。ざわめく他の男たち。
”今だ!”
この状況を打破するには、敵の親玉を押さえるしかない。
そう判断したキメラは、ハリスン兄に向かって突進した。したつもりであった。が・
・・。
足を掴まれ、倒れ込むキメラ。
振り返ったキメラは、昏倒しているはずのリックが不敵に笑いながら手をのばし、彼
女の足首を捕らえているのをみた 。
「うそっ・・・」
確かな手応えだった。普通の人間なら死んでいたかもしれない。その会心の一撃を、
この男は・・・。
リックはキメラの足を放した。2人は素早く立ち上がると、再び見合った。
と、今度はリックが動いた。速い。
会心の一撃が決まらず動揺していたキメラには、その動きは見えなかった。
ドスッ!鳩尾に強烈な一撃を食らい、膝をつくキメラ。
苦しむキメラをニャニヤと笑って見おろすリック。
『いいぞ、やっちまえ!』周りの男たちが囃し立てる。
「立て、女」リックの声に、フラフラと立ち上がるキメラ。
バシッ!今度は分厚い手のひらの平手打ちがキメラの頬に飛ぶ。
「あっ」よろめくキメラは、男たちの作る壁にもたれかかった。
『ほらほら、よろけてんじゃねえよ』壁の男がキメラを突き飛ばす。
よろよろするキメラの頬に、再び平手打ちがとんだ。
ビシッ!男の壁に倒れ込むキメラ。
壁の男がキメラの襟を掴む。
『おう、刑事さんよぉ。俺のことは覚えてるかよ。』
キメラの金髪を掴んで自分の顔を近づける男。
”くっ、さっきの・・・”
こんどは肩を後ろに引っ張られ、他の壁の男に倒れ込んだキメラ。
『俺の事はおぼえってか?刑事さん』2、3人の男が倒れたキメラに顔を近づける。
”こ、こいつらは・・・”
一人一人は覚えてはいないが、どうやら町でキメラが懲らしめたちんぴら達のようだ。
小者ばかりのようだが、今のキメラにはどうすることもできない。
『おらおらぁ』引きずり起こされ、男の壁から壁へと突き飛ばされるキメラ。
壁の男達はそれぞれがキメラに打撃を与えていく。
もうリックは何もしていない。男達の輪は徐々に小さくなって、キメラを痛めつけて
いく。
普段のキメラなら歯牙にもかけぬちんぴらに、打ちのめされていくキメラ。
意識が遠のきかけた時、キメラはハリスン兄の足下に倒れ伏した。
「どうだ、スレイグ刑事さん。ここには俺とリックの他に12人の男がいる。
皆、あんたには少なからず世話になった連中だ。
スレイグ刑事さん、あんたは強い女だ。大抵の男にゃあんたをどうすることもできな
いだろう。
あんたもそれは十分ご存じだよな。いや、実際あんたは強いよ。自信があったろうね
ぇ。
刑事さん、何で薬で眠らせたあんたに何もせず、こうした場を設けたかわかるかい?
俺ぁ、あんたが、自信も、プライドもぼろぼろにぶちこわされていくのをみたいのさ。
刑事さん、まだまだこれからだぜ。」
「くっ!」つかみ掛かろうとするキメラは男達に取り押さえられた。
「はははは・・・。程々にしておいてやれよ。今はまだ、な。」
12人の男達の蹴りと拳を受けて薄れゆく意識の中で、キメラは部屋から出ていくハ
リスン兄とリックの姿を見ていた。
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